このコーナーでは、仕事場でおきるいろいろな出来事・・・

「クライアントの不平不満」「気になるあのお仕事のギャラ」「同業者のウラ話」などなど・・・

以外の、あんまりなまなましくないお話を、多分の脚色を交えて書いています。
      


2007.9.28

 ここ数週間、からくりペーパークラフトの新作に取り組んでいます。考えてみれば、第9弾のラクダは以前に作ったものの焼き直し、去年発表したキャノンの宇宙モノと横浜ブルーダルは、最初からお題が決まっていたものなので、完全なオリジナル作品は一昨年のクリスマスのトナカイ以来作っていないことになります。サボっているつもりは全然ないのですが、「からくりの新作待ってます」という声は、ずいぶん前からいただいてますし、自分でもライフワークのつもりのこのシリーズ、やばいなー、そろそろ続編を出さねばマズイなぁというモヤモヤとした気持ちをずいぶん長い間抱えていました。
 夏休みをはさみ、仕事も気持ちも一区切りついたところで取りかかったからくり制作作業は、やっぱり楽しく、そして記憶していた以上に苦しいものでした。形が決まっているものを展開図に起こせというのであれば、そこは年の功、何となく作業は読めるのです。ところがからくりモノの場合は、中のしくみとモチーフの形が互いに影響し、あちらを立てればこちらが立たずという状態が延々と続きます。そして何より、何をどう動かすかというアイデアを決めるまでの時間は、まったく予測することができません。ちょっと思いついたモノをスケッチしては没、これはいけるかもと試作をしてはみたもののやっぱりうまく動きそうにもなく没、うまく動いてはくれたもののやっぱりコレ面白くないやと気づいて没。一日中机に向かっていて、結局なーんにも進んでいないように思える日もあります。そんなこんなでここ数週間の間、大変に機嫌の悪い日々が続いていたのでした。更新が遅れていたのもそのせいだったりします。
 そしてよくやく、これはイケるかも、という試作ができあがりました。漠然としたアイデアは以前から持っていたものですが、やっぱり手を動かしながら考えるって大事ですね。とにかく仮の形を作ってながめていると、そこからイメージもふくらんでくるし、思わぬ発展形も見つかります。後は色をつけて説明図を作ればひとまず完成。うまくいけば、年末までには発表できるかなぁ。出版社が気に入ってくれるかどうかはまた別問題なので、皆さん、どうか順調に進むよう祈っていてください。
  


2007.9.20

 夏休みが明けて以降、ちょっとペースを乱していましたが、先ほどようやく更新を済ませました。おうちのえほんのページに書いた、ちょっとうれしい話、実はもう少し続きがあります。ここでもう一回書いておくと

「以前、このシリーズを購入していただいた図書館職員の方からメールをいただきました。子供の本のコーナーのカウンターに飾るために、巻末の付録を組み立てているうちに紙工作に目覚めたそうです。その後、僕のサイトをたまたま見つけ、以前に見かけたことのあるペンギンや湿疹と同じ人間の作だと知り、びっくりしてメールを送ってくださいました。作品が先に目に留まり、後から名前がついてくる。くう〜、モノを作っている人間にとって、これほど晴れがましいことはありません。やる気100倍増の出来事でした。」

 こういう出会いは素直にありがたいことです。でも先日、別の席で、ちょっと恥ずかしい出会いがありました。
 最近仕事場の近所で焼き鳥の屋台を見つけました。美味しくて安いので、仕事の帰りに時々寄り道しています。こういう店では隣に座った人とも気楽に声をかわすもので、先日同席したご夫妻とも、串をほおばりながら機嫌良く酔っぱらいの馬鹿話をしていました。「お仕事何してるんですかぁ?」なんて話題も、話の流れで出てくるわけです。自分の仕事を説明するのがいかに難しいかを承知している僕は、こういう場合はたいがい、「デザイン関係の仕事なんです」と、サラリと流すことにしてるんですが、奥さまがデザイン専門学校の出身だったこともあって、「えー、どんなデザインされてるんですかぁ?」と、一歩踏み込んだ質問が返ってきました。こうなるとこっちも良い気分になりますよね。「えっと。馴染みがないかもしれないけど、ペーパークラフトのデザインっていって、紙の上に展開図を描いて・・・云々」なんて説明を、得意になって始めるわけです。
 その時はそのまま馬鹿話に戻りましたが、そのご夫妻と先週、またまた同席する機会がありました。奥さんいわく、「前回ひょっとしてって思ったんですけど、もしかしてムーミン作ってる方ですよね?」で、ちょっとドッキリ。「ホームページも拝見しました。素敵ですねー。」で、すっかり酔いが冷めてしまいました。オレ前回余計な話しなかったっけ?まさかエロトークはやらかしてないよなと、しばらくはシドロモドロです。酒飲みモードでいる時に、いきなりのこういう出会いは恥ずかしいなあ・・・もちろん、すっげーうれしかったりするんですけどね。


2007.8.30

 というわけで、久しぶりの更新は夏休みに行ったラオスの話です。他人の夏休みの話を読まされてもどうなのかなぁとは思いますが、「ラオス」って国自体がなじみがないだろうから、ま、許してやってください。

 初めてラオスのことを意識したのは、2001年におこなった「世界遺産ワークショップ」の仕事で、ルアンパバンという町にあるワットシェントーン寺院を作った時のことでした。作品ページにも書いたように、当時はラオスに関する情報自体がとても少なく、たった数枚の写真と、制作会社に探してもらった寺院の平面図から、想像力を駆使して展開図を起こした記憶があります。資料として買った本をつらつら眺める限り、どうやらまだまだ訪れる観光客は少なく、ものすごくのんびりした国の様子。15年前は同じように言われていたベトナムが、近年旅行した友達によると、だんだんバンコク化してきているということで、これはあんまりメジャーになる前に一度訪れねばなるまいと、機会をうかがっていました。

 さて、6年ごしの念願がかなった今回の訪問。感想を一言で言えば、噂に違わず、とてものんびりした国でした。いや、いいですよラオス。これまで行ったアジアの国の中で一番穏やかだったかもしれません。喧噪や刺激を求める人にはもの足りないかもしれませんが、しつこい物売りや値段をごまかすタクシー運転手は僕の出会った限り皆無。タイやインドを旅していると、いつかボラれるんじゃないか、どっかで騙されるんじゃないかと、常にどこかで緊張しているところがあるのですが(それが楽しかったりもするけど)、この国じゃそんな心配は必要ないかもと気づいたのは、そろそろ帰国も間際のことでした。ちょっともったいなかったです。猛暑の日本から向かったせいか、日中の暑さもそれほど苦になりませんでした。

 ラオスは、現役の社会主義国にもかかわらず、何故かおもいっきり仏教が盛んな国です。ルアンパバンの名物の一つは、毎朝早朝に行われる托鉢の儀式。5時頃に起き出して寺院が集中する大通りに向かうと、朝霞の向こうからオレンジ色の袈裟に包まれたお坊さんの行列が現れます。伝統的なこの行事が近年は観光名物になりつつあり、町でも頭を痛めているそうですが、バタバタと仕事を片づけて日本を発った翌々日の早朝にこの行進を目にした僕には、なかなか荘厳な光景で、思わずひざまずいて見とれてしまいました。西洋人はバシャバシャフラッシュたきながら写真撮ってましたけど。
 一方、これまた現役の社会主義国にもかかわらず、総じて快楽主義的な国民性もラオスの特徴だそうです。早朝の托鉢を見物した後、あこがれのワットシェントーン寺院を訪問した際、掃除機を使って本堂を掃除しているのを見た時は驚きましたし、神妙な顔をして托鉢をしていた小坊主さんが、夜には集団でネットカフェにたむろしているのを見たときは笑ってしまいました。この辺のルーズさが、あののんびりした雰囲気の源かもしれません。
 ただ、経済的には東南アジアでも最貧国の一つです。コーラより安いビールや一皿100円の焼きそばは、旅行者にとってはありがたいことですが、少々複雑な心境になってしまう瞬間もありました。でも、僕の訪れた首都ビエンチャンとルアンパバンに限って言えば、物乞いやストレートチルドレンの姿は見かけず、皆さんそこそこ平和そうな顔をしていました。気候が温暖で一年にお米が三回収穫できるこの辺りの国では、「貧困はあっても飢餓はなし」という話を耳にしたことがあります。本当にそうだったらいいなと思います。

 さてさて、今回は久しぶりの一人旅で、この旅行中に新作のアイデアをいっぱい考えてくるぞーと、意気込んでスケッチブックを抱えて出かけました。でもやっぱり新宿駅でリムジンバスに乗った瞬間にそんなこと忘れちゃいますね。宿の心配したり今夜の晩飯のことを考えている間に、あっという間に過ぎた8日間でした。ある意味これが旅行の良いところで、今年前半のことはすっきりリセットできたし、最後の2日くらいは仕事場の机がなつかしくなったりもしたので、残りの4ヶ月は新たな気持ちで仕事を楽しめるんじゃないかと思っています・・・なーんて言ってられるのも今のうちだけだろーなー。今の気持ちを忘れずに、今年の後半を何とか乗り切る所存であります。
  


2007.5.17

 ミステリー好きの方ならよーくご存じの、そうでない方でも名前くらいは聞いたことがあるだろう、宝島社の「このミステリーがすごい!(通称このミス)」という、年に1度出るムック本があります。その年に発表されたミステリーのベスト10を、書評家やミステリーサークルの人達の投票によって決める型式で、そのランキングには異論反論がある年もあるのですが、面白い本を読み逃すのは一生の不覚と、僕も毎年参考にさせてもらっています。
 同じ出版社から、「このミス」の弟分にあたる「この文庫がすごい!」という本が出されていることは、あまり知られていませんかね。「この文」なんて略称聞いたことないし。これは、ミステリーに限らず、その年に出された日本人作家によるエンターテインメント系の文庫本全体を対象にするもので、やはり職業的・非職業的な本好き数十人の投票者からのアンケートを集計してベスト10を決めるものです。

 この投票者の1人に、実は去年から混ぜてもらいました。もともとのきっかけは、自宅に置ききれず、仕事場の本棚からもあふれ、ついにはトイレの床から天井までびっしり平積みになった本の山が、打ち合わせに来てたまたま尿意をもよおした編集者さんの目に触れたこと。その話が、書評家や書店員さんといった、プロ目線ではない投票者を探していた「この文庫がすごい!」の編集者さんの耳に入り、白羽の矢を立てていただいたというわけです。
 本好きの友達と酒を飲みながらのヨタ話であれば、そりゃもう一晩中でも語り続けることはできるのです。でもそれが印刷されて不特定多数の人の目に触れるのはなぁ・・・。お引き受けしたものかどうかちょっと迷いましたが、そこはソレ、活字中毒を自認するものにとって、宝島から声をかけてもらえるなんてのは光栄なこと、そこまで奥ゆかしくなることはないかと思い、素人代表の1人として参加させてもらうことにしました。

 初回の去年は気合いが入りすぎ、読んだはずなんだけど内容を忘れた本を読み返したり、話題になってるけど未読の本をあわてて買ってきて読んだり、自分のベスト10と短評を送り終えたのは、締め切りの前日の夜中のことでした。僕がよく読む作家さんは皆さんメジャーな方ばかりですし、本を買う時も書店の平積みの中から選ぶことがほとんどですから、僕のベスト10なんて平凡も平凡、総合評価と半分くらいはカブるだろうと思いながら本の出版を待ちましたが、いやぁ皆さんいろんな本を読まれているものですねぇ。結果的に僕が選んだ本でベスト10入りしたのは2冊。残りの8冊はベスト20にも入らないという結果でした。本命当てのゲームじゃないから、それはそれでかまわないんだけど、何だか少しショックでした。
 というわけで今年は気分もグッと楽になり、送られて来たリストを眺めながら、ほぼ直感的に10冊を選び出しました。考えてみれば、去年読んでもう内容を忘れてる本が、ベスト10候補に入るわけないのです。有名だけど読んでない本は、それはそれであえて手を出さなかった理由があるはず。連休を使って順番を考え、締め切り一週間前には原稿を送ることができました。発売は夏頃になると思います。もちろん実名で書いていますので、もし見かけたら手に取ってみてください。

 それにしても、国内作家によるエンタメ系の文庫本だけでも、その数は約1600冊。海外作家や技術系、美術系の新刊本も含めると、いったい一年間に何冊の本が出版されるのでしょうか。その中でお客さんに手に取ってもらい、ましてやお金を出して買ってもらうなんてのは、それはもうものすごく幸運なことですね。『からくりの素』の表紙、もうちょっと派手にしときゃ良かったかな。
  


2007.4.14

 ニューヨークのNOTED*という会社から、からくりペーパークラフトの英語版を出版してもらっています。ここの社長Dougさんは、自分が面白いと思うものを世界中から見つけてくることが大の得意で、日本や南米の、本国でもあんまり知られていない商品を発掘して(からくりペーパークラフトとかね)パッケージングし直し、ニューヨークを中心としたミュージアムショップやセレクトショップに販売しています。
 そのDougさん、商用と新商品発掘を兼ねて年に2度くらい来日しているのですが、先日、互いの都合が合い、1年ぶりに会うことができました。前半は一応打ち合わせらしきもの。『ロボット行進曲』のアメリカ版(Teeter Totter)の売れ行きがそこそこ良いそうで、再版をかけたといううれしい報告があり、『まないたの上(Doomed)』も、もうじきなくなるので刷り増ししてくれるとのことでした。「新作も出したいんだけど何かないのか?」と聞かれ、「イヤそれが忙しくてなかなか・・・」とモゴモゴごまかしてしまうところは、日本人相手でもアメリカ人相手でも同じです。でも『からくりの素』の校正刷りを見せたところ、とても興味を持ってくれたので、もしかしたら『The Essence of KARAKURI』出版なんて可能性も出てきました。
 さて彼と会う時のメインは、毎回打ち合わせの後の飲み会です。Dougは本当に好奇心旺盛かつ好き嫌いのない人間で、始めて見る日本食でもバクバク食べてしまいます。契約関係で間に入ってくれている日本人のTさんという方が、これまた典型的な飲んべえ。毎回3人で飲みに行く時は、僕も一見で入るのはためらうようなディープな居酒屋に入り、Dougが絶対に食べたことのないような料理ばかりを注文します。前々回の飲み会ではクジラ料理、前回は馬刺を食べさせました。で、今回はウニと白子。Dougの嫌がる顔を少しは見たかったのですが、これもウマイウマイといいながら、ペロリとたいらげてしまいました。
 今回飲んでる最中に彼が言った話。「友達に聞いたんだけど、日本には『MONJYA』という very ugly な食べ物があるそうだが、それはどんなものか?」MONJYA=もんじゃ焼きですね。富山生まれの僕も、東京に出てきて始めてもんじゃ焼きを見た時にはちょっと引きました。次回の来日の際には、3人で月島行きの決定です。
  


2007.4.1

 以前から小出しに書いていた新作本の入稿が、いよいよ明日に迫りました。先週のうちに大方の作業は済ませていたので、日曜の昼から出てきてチョコチョコっとデータの整理をすれば楽勝・・・のはずだったんですが、やっぱりこれで最後だと思うと、気になる所がいろいろ出てくるものです。こんな時間になってもまだ終わりませーん。今年こそは花見に行きたかったなぁ。

 発売が間近に迫ったら、ちゃんと告知のページを作りますが、次作はこんな本です。

 (pdf型式のチラシです)

 ずいぶん前から作りたかった本で、実際ずいぶん前から手を付けてはいたのです。でも自分企画の本って、締め切りがないからついつい後回しになってしまうんですよね。やっと入稿までこぎつけました。この本に関しては、皆さんからの意見もいろいろ聞きたいので、発売までには掲示板も再開する予定です。ムーミンの時みたいに、先行予約特典も考えましょうか。内容に関しては異論反論あるかもしれないけど、少なくともつまらない文字の間違いなんかないように、もうちょっとがんばって明日に備えます。これが終わったらサイトの更新もがんばります。
  


2007.3.24

 すみません!一週パスさせてください。桜庭一樹の「紅朽葉家の伝説」はおもしろいです。そんなもん読んでるヒマあったら更新せーっちゅう話ですが、寝る前に1時間だけ本を読む以外はひたすら仕事の一週間でした。
  


2007.3.17

 更新は滞ってますが、ちゃんと元気に働いてますよ。BRHのおまけもとっくに出来上がってます。掲示板がないのでこんなとこで言い訳。
 さて今週は前回の続き。紙の選び方の話です。

 こんな仕事を長い間やっていると、知らぬうちに、製紙メーカーや紙問屋さんの発行する『紙見本』がずいぶん貯まります。新しい紙が出たり色の改変などがあった場合は、新しい見本を送ってくれるのですが、何かで使うことがあるかもと、古い見本もそのまま残しておくものだから増え続ける一方で、今では本棚ほぼ丸ごと1コ分を占領するようになりました。でもおかげさまで、先週話した紙選びのポイントの1)〜6)に関しては、紙見本をひっくり返せば、仕事場に居ながらにして何とか一人で調べることができるのです。
 さて紙選びの最後のポイントは、これはどんな商品でも同じ、7)値段 です。紙っぺら一枚の値段なんて大したことじゃないと思われるでしょうし、確かにA4サイズ1枚あたりの紙の値段は、どんな紙を使おうがたかだか数円程度です。でもこれが何枚も何十枚も、あるいは書籍のように何百枚も使ったものを数千部印刷するとなると、その差はとてもバカに出来ないのですよ。
 メーカーから送られてくる紙見本には、値段は表示されていません。参考までにと、主だった紙をラインナップし、相対的に価格を比較した表は付いてくるのですが、これはあくまでも参考。これも他の商品と同じく、どの印刷屋さん(あるいは出版社)がどのルートを通じてどれくらい発注するかによって、紙の値段というのはずいぶん上下するようです。
 というわけで、書籍の場合、自分が一番気に入った紙1種類だけを選ぶことはあんまりありません。事前に数種類の候補を上げて、出版社を通して値段を確認してもらうことが多く、時には「これこれこんな感じの紙」と、紙の印象だけ指定して、印刷屋さんに見本を集めてもらうこともあります。今作っている本に使う紙がこのパターン。一般に、見本サンプルなどを配布して販売促進に励んでいる紙はちょっとお高めのものが多く、また、日本全国で流通している紙の種類はものすごいものですから、全種類を1人の人間が把握するなんてことは絶対にできません。
 今回こちらで候補として挙げた紙はどれも少し予算オーバーで、印刷屋さんに似たような別の紙を探してもらいました。でも、どれもちょっと白すぎたり柔らかすぎたりで今ひとつ。どうしようどうしようと、買い貯めた他の作家さんのペーパークラフト本を引っ張り出していたら、何やら良さそうな紙を発見し、銘柄も分からないまま印刷屋さんに調べてもらったら、これが予算的にもバッチリで、何とかギリギリで指定の締め切りに間に合わせることができました。今週、束見本(つかみほん=製本の具合や背幅を確認するための、本紙で作った白紙の本のこと)が上がってきましたが、手触りも色味も良い感じです。ここまで来ればあとは原稿を入稿するだけ。そんなわけで、今週も休日出勤となりました。うう、もうしばらくがんばらねば。それにしても、紙の話ならいくらでもスラスラ書けるなぁ。来週も続けようっと。
 


2007.3.9

 今日はめずらしくちゃんとした仕事の話。展開図を作って、組み立て説明図を描き終えて、印刷屋さんにデータを渡す前にもう一つしなければいけないのが、紙の指定です。今月末に入稿予定の新作本に向けて、ここしばらく紙の見本とにらめっっこの毎日が続いていました。僕が紙を選ぶ際に気をつけているのは、以下のようなこと。

1)印刷適性
印刷に使う紙は、インクが乗りやすいように表面にコーティングをしてあるものがほとんどです。ただし、その分量や下地となる紙によって、印刷適性はそれぞれ異なります。もちろんきれいに印刷できるに越したことはないのですが、一般に印刷適性の良い紙は表面がツルツルだったり色が白すぎたり。その辺の見極めが難しいところです。

2)紙の厚さ
『道具と技法』でも書いたように、印刷用の紙は、厚さではなく重さを単位としています。僕が普通のペーパークラフトで使う紙は四六版ベースで135kg程度、からくり仕掛けのものは150kgから180kgを目安にしています。たいていの紙は、同じ種類で何種類かの厚さを取りそろえてありますが、同じ重さの紙でもその厚さは微妙に違い、用紙によっては1ランク上げたり下げたりしなければなりません。奮発して買ったマイクロメーターにお世話になっています。

3)紙のコシ
同じ厚さの紙でも、紙の繊維の質によってコシの強さが違います。一般的にはコシの強い紙が重宝がられるのですが、折り曲げることが前提のペーパークラフトでは、その限りではありません。再生紙と呼ばれる紙は、文字通り一度流通した紙をグシャグシャに裁断して再利用しているので、紙の繊維一本一本が短く、厚さの割にはしなやかで、結果的にこのタイプの紙を使うことが多くなります。別にエコで選んでるわけじゃないのです。

4)紙の白さ
一口に白と言ってもその色はさまざまで、限りなく純白に近いものから、ちょっと優しい黄色っぽい白、高級感のある青っぽい白、ちょっと安っぽい赤っぽい白など、銘柄によって千差万別・・・は大げさだけど、けっこう違うものです。個人的にはちょっと黄色っぽい白が好みですが、これはモチーフの種類にもよるので、それぞれ使い分けています。話しは逸れますが、昔言語学の勉強をしていた頃に知った話。真っ白な雪に囲まれて一年の大半を過ごす、イヌイットの人達が使う言語には、彼ら以外には区別のつかない、無数のバリエーションの白を指す多くの色の名前があるそうです。名前があると憶えやすいので僕も知りたいです。

5)紙の質感
これはホントに千差万別。ツルツルの紙は印刷はきれいに上がるもののちょっと無機質っぽいし、あまりラフな紙は印刷効果も悪く、ちょっとモサッとした感じがします。これもモチーフ次第です。

6)紙の目とサイズ
多くの紙は、同じ銘柄である程度の厚さのバリエーションを揃えており、それぞれの厚さで、A4の書籍、B4の書籍を効率よく作れるように、それぞれ2種類の紙のサイズを設けてあります。それでも、自分の希望した紙で、ちょうど良い厚さと規格が揃っているかは運次第。予算があれば、無駄を承知で大きめの紙から必要なサイズを取りますが、書籍ではそんな贅沢は許されません。

 と、書き連ねているうちに、ずいぶん長くなってしまいました。この話、来週に続きます。そろそろ更新もしなきゃなー。掲示板の再開も忘れてませんよ。
  


2007.3.3 

 今週の月曜日、展覧会の設営に軽井沢に行ってきました(詳しくはニュースのページをご覧ください)。いろいろ面白い話はあるんですが、すみません!ドタバタで時間がとれません。そのかわりに展示の様子をちょこっとだけご紹介。一人60センチ四方のブースが4コと、比較的コンパクトな展示ですが、その分密度の濃い展示になったと思います。軽井沢に出かける用事のあるかたは是非お立ち寄りください。冬期休暇中の暗い照明の下で撮ったため、画質のマズさはご容赦のほどを。

まずはおなじみごとうけいさん。できたてほやほやの『てのひらの水族館』から。出版おめでとうございます&お疲れさまでしたー。
そしてこちらもAXIS5人展でご一緒した篠崎さん。60センチ四方のEPSONナカジマレーシングコンプリート、圧巻です。
もしかしたら展覧会出展は始めて?紙模型.comの中沢さんが数年がかりで作り貯めた作品は、目の前で見ても紙でできているとは信じられません。
そして最後は僕のブース。手前のボタンを押すと、ペンギンが動き出します。9個全部動くと最高なんですが、そんな技術があるんなら紙工作なんかやってないって。

2007.2.23 

 「季刊生命誌」の打ち合わせで、2,3ヶ月に1度くらいのペースで大阪の高槻に行きます。学生時代を神戸で過ごしたので、今でも関西在住の友人は多く、最初の頃は「なあなあ、明日大阪行くねんけど久しぶりに飯でも食わへん?」と、インチキ関西弁で突然声をかけ、打ち合わせの後合流して酒飲んで一泊ってこともよくありました。でもそこはそれお互いいい大人、2年くらいして一巡するとさすがに声もかけづらくなり(この歳になると2年前に会ったのはつい最近のうちです)、仕事も忙しくなってきたこともあって、最近は日帰り出張がほとんどになってきました。
 大阪日帰りっていうと慌ただしい印象がありますかね。でも東京から乗り換えの京都までは新幹線で2時間ちょっと。午後から半日びっしり打ち合わせをしても、自宅に着くのは普段より早いくらいで、これくらいの頻度ならとても良い気分転換になります。朝10時過ぎののぞみに乗っていきなり缶ビールを開ければ、向こうに着くのはちょうど酔いも覚める頃(平日の日中に飲むビールというのは、どうしてあんなに美味いしいんだろうか)、何より往復の車内でじっくり読書に耽ることができるのが何よりの幸せです。先週の出張では、マイケル・クライトンの「恐怖の存在」の上巻の読みかけから始めて、帰りの品川あたりで下巻読了という、完璧な読書計画を遂行して帰ってきました。富士山もきれいだったし、京都伊勢丹地下で買った中華弁当も美味しくて、なかなか幸せな一日でした。
 毎年この時期は、春からのリニューアルの相談で2,3度まとめて通うことになります。高槻のBRHの敷地には桜の木が沢山植えられていて、タイミングによってはちょっとした花見旅行気分。今年は暖冬のせいで開花時期が早いそうですが、次の打ち合わせの日程を決める際には、是非桜前線をチェックしなければと思っています。
  


2007.2.17 イラストレーターの話

 まず最初にお断りしておくと、タイトルの「イラストレーター」というのは、イラストを描くことを職業とする人のことではありません。デザイナーが100人いたら99人は使用しているであろう、パソコンのソフトの名前で、図形を描いたりそれに色を塗ったりすることを専門にするソフトで、文字通り元々はイラストを描くことを目的に開発されたものだと思います。他のソフトの例にもれず、このイラストレーターもバージョンアップを重ね多機能化し、もうずいぶん前から、グラフィックデザイナーがイラストや写真や文章をレイアウトするための必須ツールの地位を占めています。
 ぼくがペーパークラフトをデザインする時に使うのもこのソフトです。頭に浮かべた展開図をこのソフト上で作図してプリントアウトして組み立てて、イメージと違ったり寸法の合わないところは修正して出力してまた試作、形がオッケーそうなら色を塗ったり絵を描いたりしてまたまた試作、という作業を何回も繰り返して完成品が出来上がります。グラフィックデザインの仕事でも、ほとんどこれ一本。あんまり文字が増えると操作が重くなるのが難点ですが、幸いなことに(?)何百ページもある書籍の仕事なんてのはまず来ないので、組版専用のソフトである「クォーク」や「インデザイン」にはほとんどお世話になることなく、これまで過ごしてきました。

 話は変わって、今、5月の前半には発売予定の(出版社からは4月中に出せと言われている)、ペーパークラフトの新作本に取り組んでいます。これまでに出したムーミンや北原コレクションのような、展開図と説明図を1冊の本に綴じ込んだタイプの本なんですが、これまでとは違うのは、今回はペーパークラフト以外の要素がちょっと増えてその分文章も多いってこと。こんな本を作りたいって提案したは自分なので、言い出しっぺの責任で、編集・構成に加えて、文章もほとんど自分で書く羽目になりました。そういう作業自体は嫌いじゃないからそれはまぁ良いんだけど、最初にちょっと悩んだのが、いったいどんなソフトを使えば良いのかってことです。
 
 ワープロなき今、小説家や物書きの人って、いったいどんなソフトを使っているんでしょうか。やっぱり「ワード」とか「一太郎」とか使ってるんでしょうかね。たまに雑誌の依頼などで、自分の経歴やちょっとした文章をまとめる時は、Macに付いている「シンプルテキスト」っていう、文字通りシンプルなソフトを使っています(この文章もそれで書いてます)。でもこれは一回間違えて削除してしまうと戻れないし、原稿の文字数も数えられないし、まとまった量を書くには向きません。ぼくが持ってるそれらしいソフトっていえば、あとはワードだけなんだけど、Mac版は特に動作がのろくて不安定で、今ひとつ好きになれないし。
 というわけで、実際に悩んだのはほんの1分ほどで、「えーい、どうせレイアウトも自分でやるんだから最初からイラストレーターの上で書いてしまえ!」という結論になりました。欠点は、最初に書いたように、文章量が増えてくると操作が重くなってしまうこと。でもそれを補って余りある利点は、実際に印刷されるのと同じ書体、サイズ、行間で、レイアウトを見ながら文章を書いていけるってことです。スペースに応じて文章伸ばしたり縮めたりも自由だし、逆に文章が納まりきらなくなりそうな場合は、誰に断ることもなくレイアウトを変えてしまえば良いんだから話は簡単で、これは編集者=執筆者=デザイナーだからこそなし得る荒技ですね。時々どうしても紙面が埋まり切らなくて、デザインを優先するあまり必要でもない項目を無理やり追加したりすることもあるけど、これもまぁ一人でやってる特権ってことで。そんな苦労と誤魔化しの跡、出版された暁には是非チェックしてやってください。

 以下余談です。小説家の京極夏彦さんは、執筆の際に「インデザイン」に直接書き込んでいるという話を読んだことがあります。「インデザイン」というのは、組版をするデザイナーや印刷所のオペーレーターが使うソフトで、大ざっぱに言うと、印刷された紙面と同じ状態を、そのままパソコンの画面で見ることのできるソフトで、このソフトのデータは、そのまま印刷機につなげて印刷することができます。もちろんその分、書体やサイズや印刷に関する情報など、無数の設定をしなければなりません。普通の小説家は、原稿用紙に書いたり、自分の使い易い文章ソフトを使って、原稿を渡した後の作業は組版におまかせというのが当たり前なのですが、元々グラフィックデザイナー出身の京極さんは、きっと最終紙面まで自分の目で見ないと納得できないのでしょうね。そのおかげで、少なくとも僕が持っている講談社ノベルズ版の作品は、一つの文章がページをまたぐことは一切なし、章の最終行はほぼ確実にページの最後で終わる、という徹底ぶりです。すごいです。
   


2007.2.10 ネタに困った時は本の話

 仕事柄、資料を探しによく本屋さんに行きます。ついでに個人的に読む本を探すことも多いから、趣味と実益を兼ねてってやつですね。
 一番よく行く本屋さんは、紀伊国屋の新宿南口店。7階建ての大きなビルですが、もう何年も通っているだけあって、どこにどんな本があるのかは大体分かるようになりました。欲しい本がはっきりしている時はもちろん売り場に直行ですが、大概はぼんやりとしたテーマがあって、それを形にするために何かとっかかりになるモノが欲しい、という状況ですから、そんな時は1階のマンガ売り場から7階のデザイン書・洋書売り場まで、眉間にシワを寄せながらアンテナをはって、ひたすらウロウロしています。不審です。でも同じ目的でネット上をウロウロしている時よりは、精神衛生上はずいぶん楽かも。
 それでもピンとくるものがない時は、新宿三越に入っているジュンク堂書店まで足を伸ばします。ここは2フロアなんですが、図書館並みの書架の高さと密度で、これまでに何度か掘り出し物を見つけました。下の階に入っていたロフトがつぶれて、もうじき3フロアに増えるそうなので楽しみにしています。
 紀伊国屋にしろジュンク堂にしろ、これだけ規模の大きな書店になると、たいがいの作家のたいがいの本は置いてるわけだから、あんまりその書店ならではのクセというものは出てきません。書店員さんの個性が見えて面白いのが、駅ビルの1フロアの一角くらいの中規模の本屋さん。以前、通勤の途中でよく通っていたのが、恵比寿の駅ビルに入っている「有隣堂」と、五反田の駅からちょっと歩いた「あおい書店」で、平積みにする本のセレクトとか、時々催されるキャンペーンとか、店員さんの好みが分かって楽しかったです。資料探しにはもの足りないけど、店員さん手書きのPOPに惹かれて、新しい作家さんを何人も知りました。
 今まで通った本屋さんの中で、一番強烈に印象が残っているのが、地下鉄丸の内線の南阿佐ヶ谷駅の「BOOK SHOP 書源」です。20代の半ば、阿佐ヶ谷で5、6年暮らした時期があり、当時の会社の帰りに時間があえば必ずのように立ち寄っていました。決して広くはない店内に天井まで届きそうな本棚がところ狭しと並び、通路は人がやっとすれ違えるくらいで、まるで迷宮のよう。置いてある本も今から振り返ればちょっと不思議なセレクトで、自然科学や社会科学系のマニアックな本が、まるで当然のようにレジ横の目立つ棚に置いてありました。当時はノンフィクションやルポルタージュに関心が高かったし、多感なお年頃でもあったので、この店で見つけた本にはずいぶん影響を受けた気がします。昨年、用事で数年ぶりに阿佐ヶ谷に出かけることがあり、帰りに久しぶりに「書源」に立ち寄ることができました。恵比寿やら新宿やらのクリーンでハイカラな書店に慣れてしまった身には、あの薄暗さとインク臭さは衝撃的でしたが、相変わらずの品揃えを見てうれしくなって帰ってきました。
   


2007.2.2 新しい趣味

 一昨年の暮れに自転車通勤を初めてから1年が過ぎました。自分でもいつまで続くか心配でしたが、雨の日とよっぽど元気がない日と、それからものすごく暑い日とものすごく寒い日以外は、片道30分のサイクリングを毎日楽しんでいます。気のせいか、この生活を初めてから体調が良くなったような気も。通勤とたまの打ち合わせをのぞけば一日中机に向かいっぱなしの毎日、職業病だった肩こりと腰痛は最近ほとんど意識することがないし、夜中に30分ペダルをこぎ続けて家に着いた後、一服しながら飲むビールは最高です(これは昔から)。特にここ2,3日のような小春日和の日は自転車通勤には最適。普段はたいがい寝坊をして、最短ルートを仕事場に向かってまっしぐらなんですが、たまには寄り道でもしてみようかという気になろうかというもんです。
 話は飛んで、この自転車通勤のきっかけになったのは、やはり一昨年の暮れの自宅の引っ越しでした。新しいマンションにはベランダがついていて、入居の際に不動産屋さんから、向かいの家の目隠しになるよう、何でもいいから木を置いてくれと言われていました。自慢じゃないけど若い頃、何かの拍子に買ってしまったサボテンを何本も枯らしてしまった前科のあるワタクシ。とっても憂鬱で半年以上そのままにしていたのですが、さすがにそうも言ってはいられません。去年の秋頃、気がすすまないままに近所のガーデニングショップに行って、プランターやら腐葉土やらひと揃い購入して土いじりを初めてみたところ・・・、これが面白い。すっかりのめり込んで、しばらくは毎週のように花や苗木を買いに出かけていました。
 晩酌とスポーツ観戦と庭いじりだけが気晴らしの大人にはなるまいと、RCサクセションを聞きながら心に誓った十代の頃から二十余年。ワールドカップとオリンピック専門の底の浅いスポーツ観戦の方はずいぶん昔に解禁になっていたのですが、ここに来てとうとう自然との触れ合いもOKの年齢になってしまいました。なんかなー。ひねくれ過ぎなのは分かってるけど、ちょっと口惜しい気もします。ま、いっか、清志郎も自転車にはまったし(そういえば退院&リハビリライブおめでとう!)。
 というわけで話は戻ります。たまに寄り道していつもとは違う道を通っている時に、無意識に目に入ってくるのが、よその家の庭やベランダの植栽です。「なるほど、ベランダの柵にツタをからませるにはこうすればいいのか」「この寄せ植えはきれいだな、今度試してみようかな」などなど。まだしばらく土いじりには厳しい季節が続きますが、来月になったらちゃんと年間計画を立てて、一年中花が咲き乱れるベランダにしたいな、などと考えるこの頃です。う〜んでも、文章にしてみるとやっぱり柄でもないなぁ。
  


2007.1.27 今年はいったいどうしたんだろう?

 年に二度か三度、雑誌や新聞・・・たま〜にテレビに声をかけてもらって、僕の作品や関わった仕事・・・たま〜に僕自身を紹介してもらうことがあります。もしも、その全部を年代順に追っかけて見てくれている人がいたとしたならば、「コイツあんまり新作出してねーじゃん」ってのバレバレだったりするんですが、それはさておき大変ありがたいことです。そういう記事を見て、初めて動くペーパークラフトの存在を知ったというメールをくださる方もいらっしゃるんですが、それは取材をされる記者さんも同様で、仕事場に置いてある完成品を回してみせると一様に驚いてくれて、それがまた快感だったりするんですよヘヘヘ。
 毎回決まって聞かれるのが「どうしてペーパークラフトを始めようと思ったんですか?」って質問です。実は子供の頃にペーパークラフトに夢中になったという記憶はなく、20代の前半にグラフィックデザインの仕事を始めた頃にも、当時けっこう流行っていた立体イラストレーションにはあんまり興味がありませんでした。今では、これぞ天職、この仕事を見つけることができて何てラッキーと思っているんですが、う〜ん、いったいいつからどうしてそう感じるようになったんだろうか。記者さんに質問をされて腕を組んで考え込んでるわけにもいかず、何度か取材を受けているうちに、1分くらいで話せる簡潔バージョンの答えは出来上がってしまいました。でも毎回答えながら、本当にそうなのかよって自分に突っ込んでいます。
 一方、いまだに聞かれる度に一瞬固まってしまい、毎回しどろもどろのお返事をしてしまう質問があります。それは「この動きのアイデアはどうやって出てくるんですか?」って質問。これだけは自分でもよく分からないんですよ。ものすごく考えて迷って悩んだあげくにようやく出てくることは間違いないんですが、不思議なことに、部屋の隅っこで毛布にくるまって悩んでいる真っ最中にアイデアが出てくることはめったにありません。悩みつかれて半分あきらめて、ボケーっと電車に乗っている時とか町中を歩いている時に、今まで考えてたのとは全然違う方向から、ポンってアイデアが降ってくることが多いのです。こんなことなら最初から悩まなければよかった、これまでの苦労は何だったんだって、思いついた時には口惜しい思いをするんですが、多分そういうわけにもいかないんですよね。脳の回線ってのは、きっとそういう風にできているんだと思います。
 さてさて、そもそも今日こんな話を書くことになったのは、今年に入ってから1ヶ月足らずの間に、例年の1年分、三回の取材を既に受けてしまったからなのでした。雑誌での商品紹介が二回、恥ずかしながら僕も登場する映像が一回。発表が間近になったらまたニュースのコーナーで紹介しますので、是非立ち読み、できればご購入ください。でももし、僕がなにやらそれらしき事を語っていたとしても、半分くらいは自分でも迷いながらしゃべっていることですので、その分差っ引いて受け止めてくださいね。
  


2007.1.19 漢字の力

 毎日毎日けっこうな数のスパムメールが届きます。今時ホームページで自分のメインのアドレスをリンク付きでさらしている自分の怠慢が原因ですから、あんまり文句を言える筋合いではありません。昨年、自分のPCに読み込む前にサーバーにアクセスして不要なメールは削除できるソフトを手に入れたので、夜中に届いた添付画像つきの重たいメールを毎朝チコチコ1個ずつゴミ箱に入れていた頃に較べたら、作業もずいぶん楽になりました。
 それでも、一日のうちスパムが増える時間帯というのがあるようで、うっかりメールチェックを怠っていると、20個くらいのスパムをぞろぞろ受信してしまうことがあります。半数以上を占める英語だかロシア語だかの読む気にもならないメールを除くと、その内容はと言えば、例によって出会い系サイトへのお誘いばかり。女性名義で、あたし人妻なんだけどどーのこーの、お金は持ってるからつきあってくれたらどーのこーのといった世迷い言が書き連ねられています。当然速攻で削除するべきところなんでしょうが、そのまま捨てるのも何だか一方的に侵害されたようで口惜しいので、面白そうな文面には目を通し、気になった差し出し人の名前はコピペしてコレクションしてみることにしました。時々ものすごい傑作がまぎれていたりするんですよ。シスターの告白とか、大学院生からの依頼とか。さすがにその文章をここで引用することははばかられますが、僕の琴線に触れた名前を以下に紹介しますと。。。

結菜 ・ 梨乃 ・ 悠希 ・ 愛美 ・ 夏希 ・ 優衣 ・ 麻咲代 ・ 和 ・ 夕妃 ・ 菜々美 ・ 麻弥 ・柚希 ・ 春菜 ・ 莉奈 ・ 和花 ・ 瑠花 ・ 陽菜 ・ 諏宇 ・ 穂乃芽 ・ 真和葉 ・ 結糸 ・ 凜杏 ・ 奈彩葉 ・ 美月 ・ 海斗 ・ 葉流 ・ 瑠花 ・ 美桜 ・ 優月 ・ 未羽樹 ・ 菜千佳 ・ 瑠卯菜 ・ 鎮華 ・ 彩颯

 もしこの中の名前を持つ方がご覧になっていたらごめんなさい。でもよく考えるものですよねえ。99.999パーセントは男性であろう、スパムメールの送信業者の人達が、『今時の男は、きっとこの名前には劣情を刺激されて思わずメールを読んでしまうだろう、ひいてはリンク先の出会い系サイトにアクセスしてくれる人もいるに違いない。』と、知恵を絞って考えているのだろうと思います。前半はともかくとして、後半はその読み方すら分かりません。「真和葉」「海斗」「瑠卯菜」・・・確実にどこか指向がズれてる気はするけど、確かに字面はきれいだし、一定のイメージは伝わってくるわなぁ。「莉」やら「颯」なんて漢字、簡単に変換もできないし、きっと入力ソフトの扱いにも慣れ、かつ漢字一字一字が持つニュアンスを理解することのできる、そこそこ教養のある方たちが考えているのだと思います。でも凝れば凝るほど、なんだかしみじみともの悲しくなってくることです。
 おもしろいことに、「○○子」って名前はめったに使われることがありません。僕の年代では圧倒的に多い名前ですが、最近はめっきり減っていますし、スパム業者さんたちの間でもあんまり人気がないのでしょうね。そんな中で不動の人気を誇り、2日に1通は受信するのが、「白鳥麗子」さんからのメールです。なぜかこの名前だけは必ずフルネームで届きます。日本の伝統の力を感じます。
   


2007.1.13 誰か止めてくれ

 去年の暮れに事務所の三連奏CDプレイヤーが壊れました。初代の三連奏プレイヤーが2年半で寿命になってから4年余り、一日12時間以上一年340日くらい回り続けていますから、大往生と言えるでしょう。修理はあっさりあきらめて、新しいプレーヤーを買いにヨドバシカメラに出かけました。オーディオ機器売り場を見て回るなんて数年ぶりのことだったんですが、単体の連奏プレイヤーって、もうほとんど売ってないんですね。店員さんに聞いてようやく見つけたのが、25連奏と301連奏の2機種のみ。301連奏ってあなた・・・。3連奏ですら通常のプレイヤーに較べたら壊れやすいのに、こんなの買って大丈夫かしらと思いながらも、仕方がないので25連奏の方を買ってきました。これで2万円もしないんだから、技術の進歩ってすごいものです。
 メカニズム部は思っていたよりもシンプルな構造のようで、今のところはトラブルもなく動いています。でもやっぱり面倒なのがCD25枚の管理。事務所のCDコレクションは図工室全員の持ち寄りですから、そこそこいろんなジャンルが揃っています。ずいぶん以前に書いたことがありますが、CD3枚選ぶのですらけっこうな苦労だというのに、25枚ともなるとそこにはもう「調和」だとか「取り合わせの妙」などという感覚の入る余地はありません。目についたCDを手当たり次第に放り込むのが精一杯。ものすごく面倒なんですよ、CD25枚入れかえるのって。誰かが我慢できなくなって25枚のCDをいちいちケースに戻して別のCDを25枚選んでセッティングして空ケースを棚の隅っこにまとめて置くという大役を買って出てくれないものかと図工室全員が互いの顔色をうかがいながら、今年に入ってからずっと同じ25枚が回り続けています。あーさすがに飽きてきたなぁ。301連奏買わなくてよかった。
 


2007.1.8 新年早々・・・ 

 明けましておめでとうございます。リハビリを兼ねた助走期間も終え新しい年も明けて、いよいよ「週刊」ワークショップノートの本格的な始まりだと年頭の誓いを立てたまでは良かったものの・・・ゲホンゲホン、新年早々風邪をひいてしまい、いきなり第一週目から遅れてしまいました。
 不思議なもので、仕事が立て込んでいる時はめったに風邪をひきません。熱を出して寝込んでしまうのは、いつも決まって、大きな仕事を終えた時か珍しく何日か続けて休んだ時。気持ちのゆるみがそのまま体調に出てしまうのだと思います。便利といえば便利な体ですが、風邪をひく時期まで仕事のスケジュールに合わせてしまうっていうのも、なんだか悲しい話です。

 というわけで今回はちょっとサボらせてください。自宅で一日寝込んでいた時、事務所から持ち帰った読みかけの本を読み終えてしまい、死ぬほど退屈だった時に考えてた、2006年に読んだ本ベスト10ってことでお茶を濁させていただきます(本の話ならスルスルいくらでも出てくるのです)。ひとつ一つ感想を書いていく元気はまだ出ないので、今回はタイトルと著者名だけでご勘弁を。いつかネタに困った時にまた書かせてもらいます。

第一位 「空飛ぶタイヤ」池井戸潤
第二位 「向日葵の咲かない夏」道尾秀介
第三位 「風の墓碑銘」乃南アサ
第四位 「中原の虹」浅田二郎
第五位 「図書館戦争」「図書館内乱」有川浩
第六位 「水滸伝」北方兼三
第七位 「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ
第八位 「デッドライン」建倉圭介
第九位 「狼花 新宿鮫IX」大沢在昌
第十位 「ガール」奥田英郎

 本好きの方には、なにをいまさらの作品がほとんどですかね。でも特に声を大にしてお薦めしたいのが第一位の「空飛ぶタイヤ」。僕には珍しくミステリーでも冒険小説でもありませんが、最初のページを開いてから読み終わるまで、おおげさでなく食事とトイレをはさむだけで一気読みしたのは、奥田英郎の「サウスバウンド」以来でした。世の中的にはあんまり騒がれてないようなのが口惜しいので、こんなところでささやかに応援させてもらいます、っていったい何のコーナーなんだか。今年も先が思いやらる新年第一週目でした。
  

2006年のWORKSHOP NOTE