せっかくだから、紙にもこだらろう

 「ペーパークラフトにはどんな紙が向いてるのか?」という質問を時々いただきます。ダウンロードした展開図をご自宅でプリントアウトして組み立てるというスタイルはすっかり一般的になりましたが、「コピー用紙で作ったらヘニャヘニャになっちゃった。」とか「プリントすると紙がそってしまってうまく動かない。」という方も大勢いらっしゃるようで、紙にまで気を配っている方はまだ少ないのかもしれません。
 一昔前までは、工作に使う紙といえば「ケント紙」が定番でした。表面が平滑で製図やペン画に向き、厚さも手頃、画材店に行くといろいろな種類が揃っているので、今でもこの紙を使っている方も多いようです。僕も以前は、ケント紙よりはちょっと表面がざらついた厚口の工作用紙を大量に買い込んでは、もっぱらそれを使っていました。
 しかしこれらのケント紙や工作用紙は、もともとプリンターからの出力を想定して作られたものではありません。紙によっては、モニター通りの色が出ないばかりか、インクがにじんだり紙が極端に反ってしまって使い物にならない場合もあります。
 最近のプリンターの進化はすさまじく、専用紙に出力した時の発色の良さは、商業用のオフセット印刷を上回るんじゃないかと思う時すらあるほど。一昔前の専用紙は、カッターで切るとインクの乗りを良くするための表面コーティングがポロポロ削り出されてきてあんまり好きになれなかったのですが、最近は改良されてほとんど気になりません。値段もどんどん安くなっていますので、これを利用しない手はないんじゃないかと思います。この手の紙を使う時はせっかくですので、マニュアルをよく読んで用紙に適した高画質モードでプリントしてあげてください。

インクジェットプリント用紙(フォトマット紙)

 というわけでまずは、僕が主に使っているプリンター用紙を2種類ご紹介します。ちなみに仕事場のプリンターは、いずれも二世代くらい前のエプソン(PM4000-PX)とキヤノン(IP4200)のインクジェットプリンター。オフィス向けのレーザープリンター用紙のことはよく分からないのですが、ご家庭にあるプリンターはほとんどインクジェット式じゃないかと思いますし、個人的にはペーパークラフトにはレーザーよりもインクジェットの方が適しているんじゃないかと思っています。

■キヤノン マットフォトペーパー
(AMAZONでA4サイズ100枚入:1699円/50枚入り:990円)
厚さは実測で0.22ミリ程度。ほどよい厚みで、たいがいのペーパークラフトはこれでOK。発色が鮮やかすぎるのがちょっと気になる時も。

■エプソン フォトマット紙
(AMAZONでA4サイズ50枚入り:990円)
厚さは実測で0.24ミリ程度。キヤノンとの0.2ミリの差が実際に使うとなかなかあなどれず、からくりを仕込む時や大きめの作品にはこちらを使用。紙の色はキヤノンより若干黄色く手触りも柔らかで、白さも発色も落ち着いているが、コーティングの材質のせいか、木工用接着剤との相性が若干悪いのが玉に瑕。

 この他にも、いろいろなメーカーから「厚紙用紙」や「ペーパークラフト専用紙」という名前で商品が出ていますが、いろいろ試した結果この2種類に落ち着きました。プリンターメーカー純正品だけあって、値段はいずれも他メーカーより若干お高めの1枚約20円。これを高いと考えるか安いと考えるかは人それぞれでしょうが、僕の場合はなにしろ商売道具ですので、そこはケチらずに数袋単位で買いこんでガシガシ使っています。

ファインペーパー

 発色よりも紙の風合いを重視する人や、色味の少ないポップアップカードなどを作る場合には、ファインペーパーやファンシーペーパーと呼ばれる紙もおすすめです。東急ハンズや大きめの画材店でよく扱っている紙をご紹介します。プリンターの機種やインクの種類によっては極端にインクがにじんでしまう場合がありますので、事前に試し刷りをしてみてください。僕の経験では、普通紙モードでプリントした方がうまく行く場合が多いようです。

■マーメイド
風合いのある紙の代名詞的存在。色数も豊富で、立体イラストレーションにもよく使われる紙です。良くも悪くも、ほんわかしたナチュラルな感じが出ます。

■キャンソン・ミ・タント
フランス製の水彩紙。そう思って見ると質感も色のラインナップも心なしか上品な気が。マーメイドは、この紙を参考にして作ったんじゃなかろうかと思われます。「PEPER SCULPTURE」で紹介している一点物の多くはこの紙を使っています。

■ラシャ紙
その名の通りラシャ生地のような質感で、なんてことはない無個性が個性。紙自体でクセを出したくない場合はよく使います。色数はたぶん一番多いのかな。HONDA TOY TOWNのトップページの街はこの紙で作っています。

■タント
名前が紛らわしいけどこちらは国産の紙。ラシャよりは手触りがあり、マーメイドほどはクセがなく、迷った時はこの紙がいいかも。色が鮮やかで、本の見返しなどでよく使われます。

 洋紙の販売会社ミューズさんのサイトに、うまくまとまったページを見つけたのでリンクしておきますね。

 また、これらのファインぺーパーに、インクジェット向けの表面塗工をほどこした紙も最近は出回り始めました。お値段は少々張りますが、発色と質感を両立させたい方はこちらをどうぞ。紙問屋の竹尾さんの通販ページです。

印刷用紙

 ついでなので印刷用紙の話も少しだけ。上に挙げた紙、特にインクジェットプリント用紙は、個人向けのプリンターインクに特化しているため、そのまま商業印刷(オフセット印刷)をして書籍やキットにしたりすることはできません。僕の場合、試作や撮影はインクジェットプリント用紙で済ませておいて、商品化の際に、厚さや手触り、オフセット印刷での発色や、全紙サイズと紙取りの関係、それからもちろんコストなどを考えて、何十種類とある紙の候補の中からベストな一枚を選ぶのですが、これがなかなか大変な作業なのです。同じ紙が複数の販売会社から売られていたり、ほぼ同じスペックの紙が別の会社から別の商品名で出ていたり、さらにややこしいのは、紙の価格というものが見積もりを取るまでははっきりとは分からないこと。一旦決めた紙を値段の都合で再検討なんてこともよくあります。また、あんまり選択肢が多すぎるのも考えもので、つい先日終えた仕事では、同じ銘柄の同じ厚さの白い紙を、「スノー」「アイス」「ホワイト」「ピュア」「ナチュラル」「シルキー」の6色から選ぶのに、2時間近く頭を抱えてしまいました。全部白だっちゅーの。